1969年の夏にダイ・ヴァーノンとともに来日したラリー・ジェニングスは、プロフェッサーと呼ばれたヴァーノン以上にカードマジックという分野で後の日本のマジック界に貢献したマジシャンだと思います。
それまで我流でテクニックを学んでいた多くの日本のカードマジシャン、あるいは正式なテクニックを知っていてもそれを体系づけてマジック界に正しく伝播するメディアや機会が無かったマジック界にあって、1972年に発行された「カードマジック入門」(株式会社テンヨー 加藤英夫著)は日本のカードマジック発展の歴史というものが語られるなら、正にエポックメーキングな書籍といえます。
初版は現在の様な装丁ではなく、いかにもマニアだけが購入しそうな、144ページ構成によるもので価格は2,000円でした。
加藤英夫氏が冒頭に、ラリー・ジェニングスの来日時に間違ったダブルリフト(日本流ダブルリフトと表現されていますが)を注意され、ヴァーノンのダブルリフトを練習したしたことがきっかけで、米国 Los Angels のラリーの家でカードマジック技法の武者修行をすることになった経緯が書かれています。
そこに紹介されているラリー・ジェニングスの指摘「なにも難しい技法をやれというのではなく、間違った方法をやるな」は、当時印象深い言葉として記憶しています。
時が移り、カードマジックのバイブルとも言ってよいこの本は、1992年に現在の新版の装丁となり、加藤英夫 著、下村知行 編著として、初版へのいくつかの加筆に加え、日本のマジシャンの作品も
加えた内容になりました。
下村知行氏は長年テンヨーで商品開発に携わった方でこの新版にも下村氏ご自身の作品「ハーレムダンジョン」が紹介されています。
また、当時まだTVにデビューする前の前田知洋氏も日本には数少ないクロースアップ・マジシャンとして紹介され「タイクーン・エーセス」という作品を載せています。
1992年12月と記された下村氏のあとがきには、執筆中に他界したダイ・ヴァーノンに哀悼の意を表していますが、ラリー・ジェニングスもまた5年後の1997年にこの世を去っています。
私の手元にある、もう一冊のカードマジック入門は増刷された2009年第24刷ですが、前田知洋氏から火がついたマジックブームを反映し、帯には下の様なコマーシャル・メッセージが書かれています。
1993年の第2刷の帯が、下の写真の様な、どちらかと言えばマニア向けのものであったのに対し印象的です。
確かに、この本が生まれた目的は無手勝流で技法を覚えていた日本のカードマジックマニアにとって「正しい技法習得への入門書」であったと思います。
その後マジックという文化をより広く普及させたいという意図で新版が発行されさらに増刷され「カードマジックを始める人必読の本」として進化していきました。
ただ、これはコマーシャル的なメッセージが変わったのではなく、初版から変わらずに述べられている「カードマジックを正しい技法で学ぶ」ということは、マニアにも初心者にも同様に大切であるということですね。
その結果この本が増刷され、長年愛読され、Amazonでも購入できるまでになった理由だと思います。
カードマジック界では時代とともに多くの技法や改良が行われ紹介されていますが、先ずはこの本に紹介されている正しい技法を身につけることで、様々な作品を演じることができるはずです。
趣味としてのカードマジックと長く付き合っていくためにの座右の書といえるでしょう。
Harryの独断と偏見による評価(5点満点)
紹介されている技法・作品の数 ★★★★★
紹介されている技法・作品の応用性 ★★★★★
紹介されている作品の斬新さ ★★★★☆
解説の分かり易さ ★★★★☆